
1983年の衝撃的なクラッシュ脱退(解雇)以降、果たしてミック・ジョーンズが次にどんな活動を再開するのか?それは当時の俺達パンク/ニュー・ウェイヴ・ファンの最大の関心…って前回と同じか…。しかし1983年てのはジャム解散にクラッシュ崩壊とまるで悪夢のような年だった…ああ、俺の青春は終わったんだなぁ等と思ったものだよ。
とにかくミック・ジョーンズである、俺のギター・ヒーローでありソング・ライトの師匠であり、俺の人生を決定してしまった人なのだ。そんなミックが新しいバンドを結成したというのだからもうタイヘンである。嬉しいやら落ち着かないやらで、とにかく俺は早く音が聴きたくて堪らなかった。
『SANDINISTA!』や『COMBAT ROCK』のB面の世界を継承して行くのか、それともルーツに還ってN.Yドールズやモット・ザ・フープルのようなR&Rで行くのか、どんなだろうと俺なりに想像したりして、期待で胸は膨らむ一方だったな。
無精髭にカウボーイ・ハットを目深に被った、まるでクリント・イーストウッドのようなミックとドン・レッツ達4人が並んだジャケットの『THIS IS BIG AUDIO DYNAMITE』、待ち焦がれたそのアルバムを遂にこの手にしたのは1985年11月の事。1曲目の「MEDICINE SHOW」のイントロ、SEに導かれたギター・カッティングが聴こえて来た瞬間にもう感動してしまった、軽くしゃくり上げるミックの歌声はクラッシュ時代と何ら変わらないものだ。ふんだんに挿入されるSEはドラマチックに曲を盛り上げそしてギター・ソロ!長年聴き親しんだミックならではのフレーズ、ミックが還って来たのだ!くーっ(涙…)
テクノ・ポップだ、気合いが入ってない!とか色々言う奴はいたけど俺には『サンディニスタ』から受け継がれた正しいR&Rが確かに聴こえてきた。そのアプローチはジャマイカのレゲエからN.Yのヒップホップを経由し、90年代までを見据えたミックならではのダンス・ミュージック、そうロックとダンス・ミュージックをクロスオーバーさせる事はクラッシュ後期に於けるミックのテーマだったと思うのだ。やはりこの人は安易にN.Yドールズに先祖帰りなどしない、モダンでコンテンポラリーなポップ・ミュージックを追求する人なんだなぁ。「BOTTOM LINE」やアインシュタインの相対性理論をモチーフにした「E=MC2』とか今でも大好きな曲が入ってる。
一方、同時期に発表された、ルーツに戻ると宣言したジョーのクラッシュ『CUT THE CRAP』(実際は安易な先祖帰りサウンドではなかったけど)がえらく古臭い偽物パンク・ロックに聴こえてしまったのも事実である。楽曲は悪くないと今でも思うけど、アレンジとサウンド・ワークは酷いものでミックの抜けた穴の大きさを思い知らされる痛いアルバムである。ありゃデモ・テープだよ。ただB.A.Dの「MEDICINE SHOW」のビデオ・クリップにジョーとポール(ジョン・ライドンも)が出演してミックと絡んでいるのを見た時は嬉しかったなぁ!脱退の顛末、後味の悪い思いをずっと引きずっていた俺としては何より胸のモヤモヤが吹き飛ぶ思いだった。
順調に活動を続けたB.A.Dが発表した3枚目がこのアルバム、これがB.A.Dの最高傑作だと俺は思う。ツアーで培われたバンドとしてのグルーヴ、またミックの作曲能力とセンス、どちらもが遺憾無く発揮されている。デジタルな印象が強く、それがまた個性だったB.A.Dサウンドであるが、ここでは生々しいバンドの音を聴かせてくれる。そこが良い。ドラムはもとよりミックのギターもサンプリングではなく「らしい」フレーズが随所で聴けるのが俺には何より嬉しい。R&B+FUNKな1曲目「ROCK NONSTOP」から名曲「OTHER 99」へ、ビートルズを思わせる「FUNNY NAME」と続く流れは最高で、ミックの作曲センスには再び唸らされたものだ。ジャケットのアート・ワークは当時画家として活動していたポール・シムノンの手になるもので、これがまたファンには嬉しかった。ウェスト・ウェイと高層住宅を臨む広場でのカーニバル、イメージはノッティング・ヒル・ゲートだろうか?うーん、またロンドンに行きてーなぁ(笑)
俺はミックの作るポップなナンバーが大好きだ。ジョーが歌えばそれが男臭く、凛々しいものになるし、時としてやさしさと表裏一体の悲壮感を漂わせる時もある。それがクラッシュだった。ひょうひょうとしたミックの声に物足りなさを感じつつも、この人にしか出せない世界。遊び心があり軽やかでダンサブル、それがB.A.Dの魅力。ポップ・ミュージックの何たるかを知っているのだ。
クラッシュ神話が年々巨大化する中、このB.A.Dや、ポールのHAVANA 3AM等はまるで再評価されていないようで俺は大いに不満である、ミックの良い意味でミーハーに流行を取り入れ、自己流に消化する柔軟さとアレンジ力は大きな才能だと思うんだけどね。トニー・ジェイムスとの新バンド、CARBON/SILICONでもチャート的なプレッシャー等気にせず、「らしい」曲を聴かせて欲しいね、期待してますよ、先生!