Rock'n' Roll Records
◆[SIDE 101] ★ / DAVID BOWIE (2016)
今もって信じられないのだが、デヴィッド ボウイのラストアルバムとなってしまった『★』。
これがやたらカッコ良くてずっと聴いている。

ジャズ・ミュージシャンをバックに起用した今作、中核を成すナンバーはどれもヴォルテージが高くて、何と言えば良いのか、ジャズでありながらもヒップホップからオルタナティブまで飲み込んだ、それこそボウイ流のR&Rとなっていて、とても力強い印象を受ける曲ばかりだ。

ああ、またしてもボウイは新しいスタイルを獲得したのだ。その事実に興奮してしまった。
この人はどんなに変化、変貌しても1発でそれと解る独特の歌声を持っていて、そこが大好きなのだけれど、勿論それは健在だ。

特に畳み掛けるリズムの「'TIS A PITY SHE WAS A WHORE」や「SUE (OR IN A SEASON OF CRIME)」のカッコ良さはどうだろう。
こんなアグレッシヴで冒険的なボウイ・アルバムは久しぶりなんじゃないだろうか。
間に挟まる「LAZARUS」のしっとりとした雰囲気も捨て難い魅力を放っている。

そしてオープニングのタイトル曲「★」がとにかく圧巻。これが10分に及ぶ大作なのだ。
ダークで不穏なムード漂うイントロに導かれ、ボウイが語るように歌い始める。「ブラックスター」とは如何にもボウイ自身のイメージを置き換えたものだと思える。
背負い続けた「スター」という存在、「スター」である事とはどういう事なのかを自ら総括するような、朗々とした歌だ。

途中、地獄から天国に昇るように美しいメロディに展開し、儚い夢のように綺麗な世界へ曲調が変わって行く。ここに来て「ああ、この人はもう居ないのだな…」としみじみしてしまうのだが、それを嘲笑うように再びダークなムードが支配し曲は終わって行く。

なんとドラマチックな曲だろう。これでアルバムの世界にグイグイと引き込まれてしまった。
自らの死を自覚しつつ対象化し、死の影を匂わせながらも溜め息が出る程の見事な世界を構築させるなんて業はボウイを於いて他には誰も出来ないであろう。

アルバムを象徴する大作と言えば1976年の作品『STATION TO STATION』のオープニングも10分超えのタイトル曲だったな、と思い出してしまった。あのアルバムも大好きだったから。

そんなデヴィッド・ボウイという稀代なアーティストに出会ったのは1974年頃の事だった。『DIAMOND DOGS』発表後のアメリカ・ツアーを収録した『DAVID LIVE』というライヴ・アルバムのジャケットを見た時の事を何故か鮮明に覚えている。その時は未だグラムロックの「グ」の字も知らなかったけれども、コカイン中毒で頰のこけたガリガリのボウイの姿にはインパクトがあった。そして翌年には本格的にアメリカ進出を果たした『YOUNG AMERICANS』が発売された。
タイトル曲や大ヒットしたジョン・レノンとの共作/共演曲「FAME」とか、ラジオでよく聴いていた。
またこのアルバム・ジャケットでの煙草を持った少女漫画の主人公みたいに美しいボウイのルックスも印象深いものだった。

しかしアルバムは買わなかった。
何故って、この当時の自分の興味と嗜好は何をおいても「バンド」が1番で、「ソロ・アーティスト」は後回しだったから。実に単純な理由で今も変わらないといえばそうなのだが、ともかく小遣いをやりくりして手に入れたいのは先ず「バンド」のアルバムだったのだ。

勿論ボブ・ディランを始め、ボウイやエルトン・ジョンとかニール・ヤング、スプリングスティーンだって本当は興味深々だったのだけれど…。

最初に手に入れたのは1977年、アメリカからベルリンに居を移したボウイの所謂ベルリン3部作の最初の作品『LOW』だ。
これがブライアン・イーノとコラボしたアート志向が強い実験的なアルバムで非常に面白かった。
ボウイとイーノの弾くシンセサイザーを効果的に導入しコンパクトなテクノポップ調のA面と「WARSZAWA」を筆頭にヨーロッパの退廃的なムード漂うオールインストのB面、という構成。
A面の「SOUND AND VISION」なんて今だに大好きだね。
時代はパンク/ニューウェイヴで、その流れの中でさえもボウイの存在感と評価は際立っていたと思う。
ジギー時代にボウイが鳴らしたドライヴ感溢れるR&Rはまさにパンクの原型だったと言える。

そういえばボウイとは何かと縁のあるイギー・ポップ(ストゥージズ)やルー・リード(ベルヴェット・アンダーグラウンド)の事を知ったのもこの時期で、パンク/ニューウェイヴ・ムーヴメントがもたらした影響は視野を拡げてくれたという意味で凄く大きなモノだったなと今にして思うね。

次の傑作『HEROES』と同じ頃だったろうか、1970年代のデヴィッド・ボウイは時代毎に変貌を遂げ音楽スタイルも変えて人々をアッと言わせ続けて来た訳だが、その変容を手っ取り早く教えてくれる絶好のアルバムを俺は手に入れた。
『CHANGES ONE BOWIE』、『魅せられし変容』という日本タイトルが付けられたベスト盤がそれで、初期の「SPACE ODDITY」から1976年の「GOLDEN YEARS」までの代表曲が収録されていた。
シングルのみ発売の「JOHN, I'M ONLY DANCING」も入ったこのアルバムが俺は大好きで本当によく聴いた。
思い入れとしてはこれが1番だな。ただのベスト盤というだけではなく、選曲がR&Rナンバー中心という感じでそれが良かった。

ボウイとは切っても切り離せないテーマは「宇宙」だが、宇宙飛行士の孤独を歌った「SPACE ODDITY」に始まり、ビートルズ的なポップなメロディを持つ「CHANGES」では「変化」について、アーティストとしての決意表明が歌われる。
ボウイの代名詞とも言えるグラム時代の象徴「ZIGGY STARDUST」から「SUFFRAGETTE CITY」、「JEAN GENNIE」、「DIAMOND DOGS」、「REBEL REBEL」と続くあたりはまさにR&R全開でカッコ良い事この上ない。

そう俺にとってのボウイは常に1級のロックンローラー。
例え「YOUNG AMERICANS」や「FAME」でソウルを歌おうが「HEROES」や「ASHES TO ASHES」でニューウェイヴ風にキメようが、「LET'S DANCE」で世界的に大ブレイクしようが、いつもスタイリッシュで見事にカッコ良かった。

『★』の最後は「I CAN'T GIVE EVERYTHING AWAY」というキラキラしたポップ・ナンバーである。美しいメロディに乗せて「私はもう全てを与える事は出来ない」と歌われる。
こんな素敵なお別れソングまで用意して去って行ったボウイ。

これからもずっとずっと、ボウイが遺してくれた素晴らしいロックを俺は聴き続けるだろう。

(2016.02.22)
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